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高送り加工とは?加工時間を短縮する切削技術とメリット

2026.09.03
豆知識

1.高送り加工とは?一般的な切削加工との違い

高送り加工とは、1刃あたりの送り量を大きく設定し、高い送り速度で材料を削ることで加工時間の短縮を図る切削加工方法です。主にフライス加工の荒加工で用いられ、金型部品や機械部品など、加工代を効率よく除去したい場面で活用されています。

 

「高送り」という名称から、単純に工具を速く動かす加工方法と思われることがあります。しかし、高送り加工は送り速度だけを上げる加工ではありません。専用の工具形状や小さな切込み量を組み合わせることで、刃先にかかる負荷を抑えながら高い送り量を実現する点が大きな特徴です。

 

 

高送り加工とは送り速度を高めて加工能率を上げる切削方法

切削加工の生産性を高めるには、限られた時間の中でどれだけ多くの材料を除去できるかが重要です。高送り加工では、軸方向の切込み量を比較的小さく設定する一方、1刃あたりの送り量を大きくすることで、工具を高速で移動させながら加工を進めます。

 

たとえば、工具を深く切り込ませてゆっくり削る方法に対し、高送り加工では浅い切込みで素早く工具を送ります。これを繰り返すことで、加工中の工具への負荷をコントロールしながら、トータルの加工時間を短縮しやすくなります。

 

特に、広い面積を削る荒加工やポケット加工では、高送り加工を活用することで加工能率の向上が期待できます。

 

 

一般的なフライス加工との違い

一般的なフライス加工と高送り加工の大きな違いは、切込み量と送り量のバランスです。

 

通常のフライス加工では、ある程度の切込み量を確保しながら、工具やワークに無理な負荷がかからない範囲で送り量を設定します。一方、高送り加工では、切込み量を小さく抑え、その分1刃あたりの送り量を大きく設定します。

 

また、高送り加工用の工具では、切れ刃の角度を小さくした設計が採用されることがあります。これにより、実際に生成される切りくずの厚さを抑えながら、高い送り量で加工しやすくなります。

 

つまり、高送り加工は単に加工条件を変更するだけではなく、工具形状の特性を利用して高能率加工を実現する技術といえます。

 

 

高送り加工と高速加工(高速切削)の違い

高送り加工と混同されやすいものに「高速加工」や「高速切削」があります。

 

高送り加工では、その名称のとおり「送り」を高めることが中心です。一方、高速加工では主軸回転数や切削速度を高めて加工することが中心となります。

 

そのため、「回転数が高い加工=高送り加工」ではありません。高送り加工では、必ずしも極端に高い回転数を使用する必要はなく、適切な切削速度を保ちながら送り量を大きくすることがポイントになります。

 

両者は加工時間を短縮するという目的では共通していますが、加工能率を高める考え方が異なります。

 

 

高送り加工が加工時間の短縮につながる理由

高送り加工が加工時間の短縮につながる最大の理由は、工具の移動速度を高められることです。

 

一般的な加工では、工具への負荷やびびり、刃先の欠損などを考慮すると、送り速度をむやみに上げることはできません。高送り加工では、切込み量や工具の切れ刃形状を工夫することで、刃先への負荷を抑えながら高い送り速度を設定できます。

 

その結果、同じ加工範囲でも工具が移動する時間を短縮でき、荒加工を中心にサイクルタイムの削減が期待できます。

 

ただし、高送り加工はすべての加工に適しているわけではありません。工作機械の剛性や工具、ワーク形状、被削材などによって適切な条件は異なります。高送り加工を効果的に活用するには、「送りを速くすること」だけでなく、工具選定や切込み量、加工条件を適切に組み合わせることが重要です。

 


 

2.高送り加工で加工時間を短縮できる仕組み

高送り加工では、単純に送り速度だけを上げているわけではありません。切込み量、1刃あたりの送り量、工具の切れ刃形状を適切に組み合わせることで、刃先への負荷を抑えながら高い送り速度を実現しています。

 

加工時間を短縮できる理由を理解するためには、「切込み量を小さくすること」と「切りくずを薄くすること」が重要なポイントです。

 

 

高送り加工では切込み量を小さく、送り量を大きくする

一般的なフライス加工では、ある程度の深さまで工具を切り込ませながら加工を進めます。一方、高送り加工では、軸方向の切込み量を比較的小さく設定し、その代わりに1刃あたりの送り量を大きくします。

 

つまり、「深く、ゆっくり削る」のではなく、「浅く、速く削る」ことを繰り返す加工方法です。

 

切込み量を小さくすると、1回の切削で刃先が受ける負荷を抑えやすくなります。その状態で送り速度を高めることにより、工具が加工範囲を通過する時間を短縮できるため、結果として全体の加工時間を減らすことにつながります。

 

特に、広い範囲の荒加工やポケット加工などでは、この特徴を生かしやすくなります。

 

 

切れ刃角度を小さくすると切りくずを薄くできる

高送り加工用のカッタには、一般的なフライス工具と比べて切れ刃角度が小さく設計されたものがあります。

 

切れ刃角度が小さい工具では、設定上の1刃あたりの送り量が大きくても、実際に刃先が削り取る切りくずの厚さを抑えることができます。

 

切りくずが必要以上に厚くならないため、刃先への負荷を抑えながら送り量を大きく設定しやすくなります。

 

この仕組みが、高送り加工において高い送り速度を実現できる大きな理由の一つです。

 

 

切りくずを薄くするとなぜ送り量を上げられるのか

切削加工では、1回の切削で形成される切りくずが厚くなるほど、刃先にかかる負荷も大きくなる傾向があります。そのため、単純に1刃あたりの送り量だけを増やすと、工具のチッピングや欠損、びびりなどが発生する可能性があります。

 

高送り加工では、工具形状によって実際の切りくず厚さを抑えることで、設定上の送り量を大きくしても刃先への負担が過度に増えないようにしています。

 

そのため、通常の工具と同じ感覚で送り量を設定するのではなく、高送り加工に適した工具と加工条件を組み合わせることが重要です。

 

 

切削抵抗の方向が変わり、工具のたわみを抑えやすくなる

高送り加工用工具では、切れ刃角度が小さいことで、切削抵抗の多くが工具の軸方向に働きやすくなります。

 

工具を横方向に押す力が小さくなると、工具のたわみや振動を抑えやすくなります。そのため、工具突出し量が比較的大きくなる深いポケット加工や金型の荒加工などでも、高能率な加工を行いやすくなります。

 

ただし、軸方向の力が大きくなるため、工作機械の主軸やワークの固定方法には注意が必要です。

 

 

加工能率は「送り速度」だけで判断しないことが重要

高送り加工では送り速度の高さが注目されがちですが、送り速度だけを見て加工能率を判断するのは適切ではありません。

 

実際の生産性は、切込み量や切削幅、工具径、回転数、送り速度などの組み合わせによって決まります。また、工具寿命が著しく短くなったり、びびりによって加工が不安定になったりすれば、送り速度を高めても全体の生産性は向上しません。

 

そのため、高送り加工では「どれだけ速く送れるか」ではなく、「安定した状態でどれだけ効率よく材料を除去できるか」という視点が重要です。工具や機械の特性に合わせて適切な条件を設定することで、加工時間の短縮と安定した加工の両立が期待できます。

 


 

3.高送り加工のメリット

高送り加工の大きなメリットは、加工時間を短縮しながら、安定した荒加工を行いやすいことです。単に工具を速く動かすだけではなく、切込み量や工具形状を工夫することで、工具への負荷を抑えながら高い送り速度を実現できます。

 

そのため、金型や機械部品などの荒加工を中心に、生産性の向上や加工コストの削減につながる可能性があります。ここでは、高送り加工の代表的なメリットを紹介します。

 

 

加工時間を短縮し、生産性を高められる

高送り加工の最も大きなメリットは、送り速度を高めることで加工時間を短縮できることです。

 

一般的なフライス加工と比べて、工具を速い速度で移動させながら加工できるため、同じ加工範囲でも切削に必要な時間を短くできます。特に、広い範囲の荒加工や大量の加工代を除去する工程では、サイクルタイムの削減効果が期待できます。

 

1個あたりの加工時間が短縮されれば、同じ設備でも一定時間内に加工できる数量を増やせます。そのため、生産能力の向上や納期短縮にもつながります。

 

 

工具のたわみやびびりを抑えやすい

高送り加工用の工具は、切削抵抗が工具の軸方向に働きやすい形状になっています。そのため、工具を横方向に押す力が比較的小さくなり、工具のたわみやびびりを抑えやすいというメリットがあります。

 

特に、工具の突出し量が長くなりやすい深い形状の加工では、工具のたわみが加工精度や工具寿命に影響することがあります。

 

高送り加工を適切に利用することで、こうした不安定な加工を抑えながら、高い送り速度で加工できる可能性があります。

 

 

深いポケットなどの荒加工を効率化できる

高送り加工は、金型や複雑形状部品に見られる深いポケット加工にも適しています。

 

深いポケットでは、長い工具を使用する必要があるため、一般的な加工方法では工具の振動やたわみが発生しやすくなります。高送り加工では横方向の切削抵抗を抑えやすいため、工具突出し量が大きい場合でも比較的安定した加工を行いやすくなります。

 

また、浅い切込みで高速に加工を繰り返すため、広い範囲の材料を効率よく除去できます。荒加工にかかる時間を短縮できれば、その後の中仕上げや仕上げ工程へ早く移行できます。

 

 

切りくずを排出しやすい

高送り加工では、浅い切込みで加工するため、比較的小さく薄い切りくずが発生しやすくなります。

 

切りくずが適切に排出されれば、工具とワークの間に切りくずがかみ込むリスクを抑えられます。切りくずの再切削による刃先の損傷や加工面の悪化を防ぐうえでも重要です。

 

特にポケット加工など、切りくずが加工部分に残りやすい形状では、エアブローやクーラントなどと組み合わせることで、より安定した加工につながります。

 

 

条件によっては工具寿命の向上も期待できる

高送り加工では、切りくず厚さや刃先への負荷を適切に管理できれば、工具寿命の安定化も期待できます。

 

加工時間が短くなることで、工具がワークと接触している時間そのものを減らせるほか、切削抵抗を適切にコントロールすることで、刃先への過度な負荷を避けやすくなります。

 

ただし、高送り加工を行えば必ず工具寿命が延びるわけではありません。送り量や切込み量が適切でなければ、チッピングや異常摩耗が発生する可能性があります。

 

高送り加工のメリットを十分に引き出すためには、加工時間だけでなく、工具寿命や加工の安定性も含めて条件を調整することが重要です。適切な工具と切削条件を選定できれば、加工時間の短縮、生産性の向上、安定加工を同時に実現しやすくなります。

 


 

4.高送り加工のデメリット・注意点

高送り加工は、加工時間の短縮や生産性の向上が期待できる一方、すべての加工に適しているわけではありません。工具形状や切削条件、工作機械の剛性、ワークの固定状態などによっては、十分な効果が得られない場合があります。

 

また、「高送り」という言葉だけを見て送り速度を大きくしすぎると、工具の欠損や加工不良につながる可能性もあります。高送り加工を安定して行うためには、メリットだけでなく、デメリットや注意点を理解しておくことが重要です。

 

 

切込み量を大きくしにくい

高送り加工では、基本的に軸方向の切込み量を小さく設定し、その分送り量を大きくして加工します。そのため、1回の加工で深く削り込む方法には向いていません。

 

加工形状によっては、浅い切込みを何度も繰り返す必要があり、工具経路が長くなることもあります。送り速度が高くても、加工回数が増えすぎると、期待したほど加工時間を短縮できない場合があります。

 

そのため、加工代やワーク形状を確認し、高送り加工が本当に効率的かを事前に検討することが大切です。

 

 

加工形状によっては使用しにくい

高送り加工は荒加工に向いている一方、すべての形状を加工できるわけではありません。

 

たとえば、工具形状の影響によって、垂直に近い壁面や細かな隅部をそのまま仕上げることが難しい場合があります。また、高い寸法精度や良好な表面粗さが求められる仕上げ加工では、別の工具や加工方法が必要になることもあります。

 

そのため、高送り加工は荒加工で効率よく材料を除去し、その後に中仕上げや仕上げ加工を行うといった使い分けが効果的です。

 

 

軸方向の切削抵抗が大きくなる

高送り加工用工具は、切削抵抗を工具の軸方向に逃がしやすいことが特徴です。これにより横方向の力を抑え、工具のたわみを小さくしやすいというメリットがあります。

 

一方で、軸方向にかかる力は大きくなります。そのため、工作機械の主軸や工具保持部、ワークの固定方法によっては、負荷が問題になる可能性があります。

 

特に、クランプが弱いワークでは、加工中にワークが浮いたり動いたりするリスクがあります。高送り加工を行う際は、工具だけでなく、機械や治具を含めた加工系全体の剛性を確認することが重要です。

 

 

薄肉・薄板ワークでは変形に注意が必要

高送り加工では軸方向に大きな切削抵抗がかかりやすいため、薄肉部品や薄板ワークでは注意が必要です。

 

剛性の低いワークに強い力が加わると、加工中にたわみや振動が発生し、寸法精度や加工面に影響する可能性があります。また、加工後にワークが元の形状へ戻ることで、狙った寸法からずれることもあります。

 

薄肉形状を加工する場合は、送り量を抑えたり、加工方向を工夫したりするなど、ワーク剛性を考慮した条件設定が必要です。

 

 

送り量だけを上げると工具破損につながる

高送り加工で最も注意したいのが、「高送りだから送り速度を上げればよい」と考えることです。

 

送り量を過度に大きくすると、刃先への負荷が増加し、チッピングや欠損、異常摩耗が発生する可能性があります。また、工作機械の出力や主軸負荷を超える条件では、安定した加工を継続できません。

 

高送り加工では、切削速度、1刃あたりの送り量、切込み量、切削幅などを総合的に設定する必要があります。初めて導入する場合は、工具メーカーが提示している推奨条件を基準とし、加工状態を確認しながら調整するとよいでしょう。

 

高送り加工の効果を最大限に引き出すには、「送り速度を高くすること」そのものを目的にするのではなく、工具、機械、ワーク、加工形状に合った条件で安定して加工することが重要です。

 


 

5.高送り加工に適した加工・工具と切削条件の考え方

高送り加工の効果を十分に引き出すためには、加工内容に適した工具を選び、工作機械やワークの状態に合わせて切削条件を設定することが重要です。

 

高送り加工は、加工時間の短縮に有効な方法ですが、どのような加工でも同じ効果が得られるわけではありません。特に荒加工との相性がよく、加工代を効率よく除去したい場面で活用しやすい加工方法です。

 

 

高送り加工が向いている加工

高送り加工は、金型や機械部品などの荒加工、ポケット加工、深い部分の加工などに適しています。

 

特に、大きな加工代を短時間で除去したい場合には、高い送り速度を生かして加工時間を短縮しやすくなります。また、切削抵抗が工具の軸方向に働きやすいため、工具の突出し量が長くなる深いポケットでも、横方向のたわみを抑えながら加工しやすい点が特徴です。

 

一方で、仕上げ面の精度が重視される加工や、細かな隅部、薄肉形状などでは、高送り加工だけで完結させることが難しい場合があります。そのため、荒加工を高送り加工で効率化し、その後に中仕上げや仕上げ加工を行うといった使い分けが有効です。

 

 

高送りカッタ・高送り工具を選ぶポイント

高送り加工では、専用に設計された高送りカッタや高送り用エンドミルを使用するのが一般的です。

 

工具を選ぶ際は、被削材、加工形状、加工深さ、工具径、使用する工作機械などを確認します。たとえば、鋼、ステンレス鋼、鋳鉄などでは、それぞれに適した工具材種やコーティングが異なります。

 

また、ポケット内部など狭い部分を加工する場合は、工具径やシャンク形状も重要です。工具の突出し量が長くなるほど振動が発生しやすくなるため、必要以上に長い工具を使用しないことも安定加工につながります。

 

 

切削速度・1刃送り・切込み量を適切に設定する

高送り加工の条件設定では、切削速度、1刃あたりの送り量、軸方向の切込み量、切削幅を総合的に考える必要があります。

 

高送り加工だからといって、送り量だけを大きく設定すればよいわけではありません。切込み量が大きすぎたり、機械の能力を超えた送り速度を設定したりすると、工具の欠損やびびりにつながる可能性があります。

 

特に初めて使用する工具では、工具メーカーが公開している推奨切削条件を基準に設定することが基本です。そこから、主軸負荷や切削音、切りくずの状態、工具摩耗などを確認しながら条件を調整します。

 

 

初めて高送り加工を行う際は余裕のある条件から始める

高送り加工を初めて導入する場合は、いきなり最大条件で加工するのではなく、安定性を確認しながら段階的に条件を上げていくことが重要です。

 

まずは推奨条件を参考にしながら、やや余裕を持った送り量や切込み量で加工します。そのうえで、びびりや異常音、チッピングなどが発生していないことを確認し、必要に応じて送り速度を高めていきます。

 

また、ワークの固定状態や切りくずの排出状況も確認が必要です。条件そのものに問題がなくても、切りくずが滞留すると刃先の損傷につながる場合があります。

 

 

びびりや工具破損が発生した場合は条件を見直す

高送り加工中にびびりや工具破損が発生した場合は、単純に送り速度だけを下げるのではなく、原因を確認することが大切です。

 

工具の突出し量が長すぎないか、ワークの固定が十分か、切込み量が大きすぎないか、切りくずが適切に排出されているかなどを確認します。

 

高送り加工を成功させるポイントは、数値上の送り速度を追求することではありません。使用する機械や工具、ワークに合った条件で安定して加工し、結果として加工時間を短縮することが重要です。適用する加工を見極め、推奨条件を基準に調整することで、高送り加工のメリットを生かしやすくなります。