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トレーサビリティとは?製造業で欠かせない理由と事例

2025.09.04
豆知識

1. トレーサビリティとは?意味と基本的な仕組み

トレーサビリティ(Traceability)とは、日本語で「追跡可能性」と訳され、製品や部品、原材料の流れを「さかのぼって追跡」または「将来に向けて追跡」できる仕組みを指します。製造業においては、原材料の仕入れから製造工程、検査、出荷、さらには販売や流通先までを、一貫して記録・管理し、必要な時にその情報を素早く参照できる状態を意味します。

もともとは食品業界や医薬品業界での安全性確保を目的に普及しましたが、近年では自動車、電子部品、精密機械など幅広い分野で導入が進んでいます。背景には、製品の高機能化や国際的な品質規格への対応、さらに消費者や取引先からの品質・安全性への要求の高まりがあります。

 

トレーサビリティの2つの方向性

トレーサビリティには、大きく分けて2つの方向性があります。

 

  1. 1.フォワードトレーサビリティ(Forward Traceability)
    製造した製品が「どこへ流通したのか」をたどる仕組みです。例えば、あるロットの部品がどの完成品に使われ、どの顧客へ納品されたのかを追跡します。リコールや市場クレーム発生時に迅速な対応が可能になります。
  2.  

  3. 2.バックワードトレーサビリティ(Backward Traceability)
    完成品から「その部品や原材料がどこで作られたのか、いつ製造されたのか」をさかのぼって特定する仕組みです。不具合が発生した場合、その原因を原材料や特定の工程に絞り込むことができます。

この両方を組み合わせることで、製造現場は「入口から出口まで」一貫して情報を把握でき、品質保証の信頼性を大きく高めることができます。

 

製造業における具体的な仕組み

製造業でのトレーサビリティは、多くの場合、以下のような情報を管理・記録します。

 

  • ・原材料・部品情報:仕入れ先、ロット番号、入荷日など
    ・製造工程情報:加工日、使用設備、作業担当者、検査結果など
    ・出荷・流通情報:出荷日、納品先、配送ロットなど

 
これらの情報は紙の帳票ではなく、生産管理システム(ERP)、製造実行システム(MES)、バーコードやQRコード、RFIDタグなどを活用して電子的に管理するケースが増えています。特に近年は、IoTやセンサー技術の進化により、リアルタイムで工程情報を取得し、クラウド上に蓄積する仕組みが主流になりつつあります。

 

なぜ「今」注目されているのか

現代の製造業において、トレーサビリティは単なる品質管理の一部ではなく、企業の信頼性を左右する重要な要素になっています。もし市場で不具合が発生した場合、トレーサビリティが整っていなければ、全製品を回収せざるを得ない状況になり、多大なコストとブランドイメージの損失を招きます。一方、しっかりとした記録があれば、影響範囲を特定し、必要な部分だけを迅速に対応できるため、被害を最小限に抑えることが可能です。

このように、トレーサビリティは「製品の安全性を保証するための仕組み」であると同時に、「企業の競争力を支える基盤」として、ますます重要性を増しています。

 


 

2. 製造業でトレーサビリティが重要とされる理由

製造業においてトレーサビリティが重要視される理由は、単なる「記録管理」や「規制対応」にとどまりません。それは企業の信頼性・競争力を直接左右する要素であり、品質保証・リスク管理・業務改善など、多方面において大きな役割を果たすからです。以下に、その代表的な理由を詳しく解説します。

 

1) 品質保証の確実化

製造業では、製品の品質は顧客満足度を左右する最も重要な要素の一つです。トレーサビリティを整備することで、各製品がどの材料を使い、どの工程を経て完成したかを明確に把握できます。
例えば、顧客から「製品に不具合がある」との連絡が入った場合、対象ロットの製造記録を参照することで、同じ条件で製造された他の製品を特定し、迅速に品質検証や改善措置を行うことができます。これにより、対応の正確性が高まり、クレーム処理にかかる時間やコストを削減できます。

 

2) リコール時の迅速かつ的確な対応

製品に安全上の問題が発生し、リコールを行わなければならない場合、トレーサビリティが整っていれば、影響範囲を最小限に抑えることが可能です。
例えば、自動車部品メーカーでは、欠陥部品が使われた車種や生産期間を正確に特定することで、不要な回収を避け、費用と労力を大幅に削減できます。逆に、トレーサビリティが不十分な場合は、全製品を回収せざるを得ないこともあり、これは莫大な損失とブランド価値の低下につながります。

 

3) 法令・規格への適合

多くの業界では、法律や国際規格でトレーサビリティの確保が義務付けられています。

 

  • ・食品業界では「食品表示法」や「HACCP」
  • 医療機器では「医薬品医療機器等法(薬機法)」
    ・自動車産業では「IATF 16949」
    ・航空宇宙分野では「AS9100」
  •  

  • これらの規格は、製品の安全性と品質を担保するために、原材料や製造工程の記録・保存を求めています。規格に適合していることは、国内外の取引先や顧客からの信頼を得るための条件でもあります。

 

4) サプライチェーン全体の可視化

近年の製造業は、グローバル規模で部品や原材料を調達し、多様な拠点で製造・組立を行うケースが増えています。こうした複雑なサプライチェーンでは、一部の遅延や不具合が全体に波及するリスクが高まります。
トレーサビリティを導入すると、部品の入荷から完成品の出荷までの流れを可視化でき、在庫管理や生産計画の精度が向上します。結果として、納期遵守率の向上や無駄な在庫の削減につながります。

 

5) 顧客・取引先からの信頼獲得

特にBtoB取引においては、品質や納期だけでなく「万が一の際の対応能力」も評価対象となります。トレーサビリティが整っていれば、「何かあっても迅速に原因を特定し、適切に対応できる企業」という印象を与えることができます。これは長期的な取引継続や新規受注の獲得にも直結します。

 

6) 継続的な業務改善の基盤

トレーサビリティによって蓄積される膨大な製造データは、不良品の発生傾向や工程ごとのボトルネックの分析に活用できます。例えば、「特定の機械で加工された部品の不良率が高い」などの傾向を早期に発見し、改善策を打つことが可能です。これにより、品質向上だけでなく生産性の向上にもつながります。

 

このように、トレーサビリティは単なる記録管理ではなく、「品質保証」「リスクマネジメント」「顧客満足」「法令遵守」「業務改善」という多方面で製造業を支える仕組みです。導入にはコストや運用の手間が伴いますが、それ以上の価値を企業にもたらすため、今や製造業に欠かせない存在となっています。

 


 

3. トレーサビリティ導入のメリット

製造業においてトレーサビリティの導入は、単に「記録を残す」ことではなく、企業全体の競争力を高める重要な経営施策です。導入にはコストや労力が伴うものの、その効果は品質保証、顧客満足、業務効率化など、多岐にわたります。ここでは、代表的なメリットを詳しく解説します。

 

1) 品質管理の精度向上

トレーサビリティを導入すると、原材料のロット番号や製造工程、検査記録、出荷情報などが紐づけられ、一元管理できます。不具合が発生した際、その原因を迅速に特定でき、再発防止策の検討が容易になります。
例えば、特定ロットの原材料に不具合があった場合、どの製品に使用されたかを即座に把握でき、影響範囲を最小限に絞り込めます。これにより、無駄な製品回収や検査を避けられ、コスト削減と対応スピード向上が同時に実現します。

 

2) リスクマネジメントの強化

市場クレームやリコール対応において、迅速かつ正確な情報提供は顧客の信頼を守る上で不可欠です。トレーサビリティが整備されていれば、影響範囲を正確に特定でき、必要な範囲だけに的確な対応が可能になります。
過剰な回収や情報の錯綜を防ぐことで、経済的損失やブランド価値の毀損を防止できます。特に、自動車・航空機・医薬品など安全性が重視される業界では、リスク低減の効果は絶大です。

 

3) 法令遵守と取引条件の維持

多くの業界で、法令や国際規格によりトレーサビリティの確保が義務付けられています。食品業界ではHACCP、医療機器では薬機法、自動車部品ではIATF 16949やISO 9001などが代表例です。
これらに対応することで、輸出入や大手企業との取引条件を維持・拡大できる可能性が高まります。法令遵守の体制が整っていること自体が、企業の信頼性を示す証明にもなります。

 

4) 生産効率・在庫管理の改善

トレーサビリティの仕組みは、生産管理システム(ERPやMES)と連携することで、工程ごとの進捗や在庫状況をリアルタイムに把握できます。
これにより、部品の過剰在庫や欠品の防止、生産計画の精度向上が可能になります。また、仕掛品や完成品の滞留時間を短縮し、納期遵守率を高める効果もあります。

 

5) 顧客満足度の向上

顧客からの問い合わせやクレームに対して、迅速かつ正確に対応できることは、信頼関係の構築につながります。
例えば、「この製品はどの材料を使っているのか」「どの工場で製造されたのか」といった質問に即座に答えられる体制は、顧客の安心感を高め、長期的な取引継続や新規受注にも寄与します。

 

6) データ活用による継続的改善

トレーサビリティで蓄積されたデータは、品質改善や工程改善の基礎資料として活用できます。
不良率の高い工程や設備を特定し、設備更新や作業手順の見直しを行うことで、品質と生産性を同時に高められます。さらに、IoTやAIを組み合わせれば、将来的な不具合予測や予防保全にも応用可能です。

 

7) 企業ブランド・信用力の向上

トレーサビリティの導入は、取引先や消費者に対して「品質に責任を持つ企業」という強いメッセージになります。安全・安心を前提とした企業姿勢は、価格競争に頼らない差別化要因となり、ブランド価値の向上に直結します。

 

このように、トレーサビリティ導入は品質保証・リスク低減・法令遵守・効率化・顧客満足・ブランド力向上と、多方面にわたるメリットをもたらします。初期投資や運用の手間を上回る価値を企業にもたらすため、長期的視点で導入を検討することが重要です。

 


 

4. トレーサビリティ導入のデメリット・課題

トレーサビリティは品質保証やリスク低減など多くのメリットをもたらしますが、その一方で導入や運用にはコストや人的負担が伴い、現場の混乱を招く可能性もあります。ここでは、製造業においてトレーサビリティを実装する際に直面しやすいデメリットや課題を整理します。

 

1) 導入コストの負担

トレーサビリティを実現するには、情報を収集・管理するための仕組みが必要です。バーコード・QRコード・RFIDタグなどの識別用機器、生産管理システム(ERP・MES)、データベースサーバー、通信インフラなど、ハード・ソフト両面での投資が発生します。
特に中小企業では、この初期費用が大きなハードルになることが少なくありません。さらに、既存の設備や工程にシステムを組み込むための改修費も必要になる場合があります。

 

2) 運用負荷と現場の負担

導入後は、現場の作業員が正確なデータを入力し、機器を適切に使用する必要があります。作業工程にバーコード読み取りや記録入力などのステップが増えることで、現場の負担が増し、作業スピードが低下する懸念もあります。
また、データ入力ミスやスキャン漏れが発生すると、記録の信頼性が損なわれ、トレーサビリティの意味が薄れてしまいます。

 

3) データ管理・保管の難しさ

トレーサビリティでは、製造から出荷までの膨大なデータを長期間保管する必要があります。業界や法規によっては、数年間にわたる保存が義務付けられている場合もあり、そのためのサーバー容量やセキュリティ対策が不可欠です。
特にクラウドを活用する場合は、情報漏えい対策やアクセス権限管理が課題になります。万一のサイバー攻撃やシステム障害への備えも重要です。

 

4) 社内文化・意識改革の必要性

トレーサビリティの効果を最大限に発揮するには、現場から管理部門まで全員がその目的と重要性を理解していることが前提です。しかし、現場では「手間が増えるだけ」「これまで問題なくやってきたのに」という抵抗感が生まれることもあります。
単なるルールの押し付けではなく、教育・研修を通じて「なぜ必要なのか」「どのように役立つのか」を浸透させることが不可欠です。

 

5) システム間連携の複雑さ

複数拠点や外部サプライヤーを含むサプライチェーン全体でトレーサビリティを確立するには、異なるシステムやデータフォーマットを連携させる必要があります。
これがスムーズにいかないと、情報の分断や更新の遅れが生じ、結果として正確な追跡ができなくなる恐れがあります。特に海外拠点や取引先との連携では、言語や規格の違いも障壁となります。

 

6) ROI(投資回収)の不透明さ

トレーサビリティは長期的に見ればリスク低減やブランド価値向上に寄与しますが、その効果は数値化しにくく、短期的な投資回収が難しいケースもあります。そのため、経営層の理解を得られず、プロジェクトが途中で頓挫するリスクがあります。

トレーサビリティの導入には、コスト、運用負荷、データ管理、社内意識、システム連携など多くの課題が存在します。これらを事前に把握し、段階的導入やパイロットプロジェクト、外部コンサルティングの活用などでリスクを抑えることが成功の鍵となります。
メリットが大きい一方で、準備不足や運用不全が続けば形骸化してしまうため、導入計画と教育体制の整備が不可欠です。

 


 

5. 製造業におけるトレーサビリティの事例と活用方法

トレーサビリティは、業界や製品の特性に応じて導入方法や活用シーンが異なります。ここでは、製造業の現場で実際に活用されている事例を分野ごとに紹介し、その具体的な効果や運用ポイントを解説します。

 

1) 食品製造業:原材料のロット管理と異物混入対応

食品業界では、HACCPや食品表示法への対応としてトレーサビリティの導入が進んでいます。
例えば、大手食品メーカーでは、原材料ごとにロット番号を付与し、入荷から加工、包装、出荷までの履歴をシステムで一元管理しています。万一異物混入や食中毒の報告があった場合、そのロットが使用された全製品を迅速に特定し、該当商品の回収・販売停止を即座に実施可能です。これにより、被害拡大の防止と消費者の信頼確保を両立しています。

 

2) 自動車部品メーカー:リコール対応の迅速化

自動車業界では、安全性が直接人命に関わるため、部品単位でのトレーサビリティが求められます。
ある自動車部品メーカーでは、製造工程ごとにバーコードスキャンを行い、部品番号・生産日・使用設備・作業者情報を記録。車両識別番号(VIN)と紐づけることで、特定の車両に搭載された部品を即時に追跡できます。これにより、不具合発生時には対象車両を絞り込み、不要な範囲へのリコール通知を避けることが可能となります。

 

3) 電子機器製造業:シリアル番号による不良解析

電子機器メーカーでは、製品1台ごとにシリアル番号を付与し、生産から販売後のサポートまで管理しています。
不具合報告があった場合、そのシリアル番号を基に使用部品や製造ライン、検査結果まで遡って分析。結果として、特定ラインでの作業ミスや部品ロットの問題などを迅速に特定し、再発防止策を早期に打ち出せます。

 

4) 医療機器メーカー:法令遵守と安全性確保

医療機器業界では、薬機法やISO 13485などの国際規格により、トレーサビリティの確保が義務付けられています。
ある医療機器メーカーでは、部品調達から製造・検査・出荷・設置までの全工程をデジタル記録化。製品の使用開始後もメンテナンス履歴を残すことで、長期的な安全性管理を実現しています。これにより、規制当局の監査や市場からの調査依頼にも迅速に対応できます。

 

5) 活用方法の広がり:IoT・AIとの連携

近年では、IoTやAI技術と組み合わせた高度なトレーサビリティ活用が増えています。

 

  • ・IoTセンサーで製造設備の稼働データをリアルタイム収集
    ・AIによる不良発生予測や工程改善提案
    ・クラウド基盤を利用したグローバル拠点間でのデータ共有

こうした仕組みにより、単なる「履歴管理」から「予防・改善」へとトレーサビリティの役割が進化しています。

 

6) 導入成功のポイント

事例から見えてくる成功の共通点は以下の通りです。

     

  1. 1.段階的な導入:最初から全工程に適用せず、重要工程から順次展開
  2. 2.現場教育の徹底:目的やメリットを共有し、正確な記録習慣を定着
    3.システム連携の最適化:既存の生産管理・在庫管理システムとスムーズに統合
    4.定期的な運用評価:記録の精度や運用負荷を定期的に見直し改善

 
トレーサビリティは、食品・自動車・電子機器・医療機器など幅広い業界で活用されており、その導入目的は「安全性の確保」と「迅速な問題対応」にとどまりません。IoTやAIとの融合によって、製造プロセスの最適化や予防保全、顧客サービスの向上といった新たな価値創出の基盤にもなり得ます。
事例を参考にしながら、自社の製品特性や取引先の要求に合わせた最適な運用モデルを構築することが、今後の競争力強化につながります。